「益荒男 山廃 純米吟醸」は、石川県加賀市に蔵を構える鹿野酒造が手がける日本酒です。鹿野酒造の創業は1819年(文政2年)。
加賀平野の豊かな水と北陸の寒冷な気候を生かし、200年以上にわたり酒造りを続けてきた老舗蔵として知られています。現在は代表銘柄「常きげん」が全国的に有名ですが、「益荒男」ブランドも古くから地元で親しまれてきた存在です。
「益荒男(ますらお)」という名は、古語で勇ましい男や強い男を意味します。その名の通り、この酒には力強い旨味と骨格のある味わいが与えられています。
一方で、単なる濃厚酒では終わらず、山廃仕込み特有の酸とキレによって食中酒としての完成度を高めている点が特徴です。
鹿野酒造は能登杜氏の流れを汲む酒造りを重視しており、派手な香りだけを追うのではなく、「料理とともに飲み続けられる酒」を目指しています。
特に山廃仕込みへのこだわりは強く、自然の乳酸菌を活用する伝統製法を用いることで、複雑な旨味や奥行きのある味わいを生み出しています。
近年は華やかな吟醸香を持つ日本酒が人気ですが、「益荒男 山廃 純米吟醸」はあくまで旨味主体の設計を貫いており、そこにこの酒の個性があります。
実際にグラスへ注ぐと、香りは穏やかです。リンゴや洋梨を思わせる控えめな吟醸香の奥に、米由来のふくよかな香りや乳酸系のニュアンスが感じられます。近年のフルーティー系日本酒のように香りが前面へ出るタイプではなく、落ち着きのある香味設計です。
口当たりはやわらかく、最初に米の甘みと旨味が広がります。しかし、山廃らしい酸が中盤から現れ、後半にかけて味を引き締めていきます。旨味はしっかりあるものの、重たさはそこまで強くなく、純米吟醸らしい滑らかさも備えています。余韻には軽い苦味と酸が残り、飲み飽きしにくい構成です。
温度帯によって印象が変わるのも、この酒の面白いところです。冷酒ではキレと吟醸感が際立ち、常温付近では米の旨味が広がります。さらに、ぬる燗にすると山廃特有のコクがふくらみ、だし系料理との相性が非常に良くなります。特に煮物、焼鳥、鴨料理、味噌系の料理とは高い相性を見せます。北陸の郷土料理と合わせると、酒の輪郭がより鮮明に感じられるでしょう。
「益荒男 山廃 純米吟醸」が支持される理由は、派手さよりも完成度にあります。日本酒初心者に強く訴求する華やか系とは異なりますが、日本酒を飲み慣れた人ほどこの酒のバランスの良さを評価する傾向があります。旨味・酸・キレの設計が非常に自然で、食中酒としての使いやすさが高いためです。
また、山廃仕込みというと「クセが強い」「重い」という印象を持つ人もいますが、この酒は比較的飲みやすくまとめられています。山廃初心者でも入りやすく、それでいて伝統的な日本酒らしさをしっかり感じられる点が魅力です。食事と一緒にゆっくり楽しみたい人や、香り偏重ではない米の酒を探している人には特に向いています。
近年の日本酒市場では、フルーティーで軽快なタイプが注目されがちですが、「益荒男 山廃 純米吟醸」は、あえて古典的な日本酒の魅力を現代的な飲みやすさへ落とし込んだ一本と言えます。伝統製法を守りながらも、重すぎず、食事に寄り添う設計へ仕上げている点に、鹿野酒造の技術力が表れています。
一言で表すなら、「旨味とキレを両立した、現代的な山廃純米吟醸」です。派手さではなく、飲み進めるほどに良さが見えてくる、実直な日本酒だと言えるでしょう。

レビュー
1
キレがあるが飲みやすい
辛口が苦手でもスイスイ飲みやすい。
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