菊姫を醸す菊姫合資会社は、安土桃山時代の天正年間(1573〜1592)に屋号「小柳屋」として創業した、石川県白山市鶴来の老舗です。
近代では1902年に柳酒造店へ、1928年に菊姫合資会社へ改組。大きな転機は戦後で、1959年に純米酒醸造の研究を始め、1969年に本仕込み純米酒を完成、1983年には山廃酒母を復活させて「山廃仕込純米酒」を発売しました。
原料には白山の伏流水と、兵庫県三木市吉川町の特A地区産山田錦を用いる姿勢が、蔵の品質思想を象徴しています。
「菊姫」の名は、白山比咩神社の祭神である菊理媛命と、加賀に伝わる「菊酒」の伝承にちなむものです。
菊姫は、良い酒のためなら原料・設備・技術継承に妥協しない蔵として知られ、山田錦の確保や人材育成、設備投資を長期視点で続けてきました。
その立ち位置は、単なる伝統蔵ではなく、失われかけた純米酒や山廃の価値を現代に再定義してきた“復権の担い手”に近いです。
「菊姫 山廃純米 無濾過生原酒」は、毎年12月と2月に出荷される冬季限定酒で、しぼりたての山廃純米を、ろ過も火入れもせず瓶詰めした一本です。
蔵元によれば、香りは控えめながらバナナ、メロン、洋ナシを思わせる甘やかさがあり、口当たりにはとろりとした甘味、肉厚でジューシーな旨味、引き締まった酸味が重なります。
さらに原酒らしい力強さ、後口に残る苦味やエグ味まで含めて、輪郭の太い濃醇な飲み口をつくっています。熟成させた通常の「山廃純米」がまろやかさを見せるのに対し、こちらは新酒らしい荒々しさと押しの強さが魅力です。
山廃らしい旨味と酸の骨格を、生酒・無濾過・原酒という最もダイレクトな形で味わえる点にあります。
軽快で繊細な酒というより、飲みごたえを求める人、米の旨味が明確な食中酒を好む人に向く一本です。
蔵元も北陸の冬の味覚との相性の良さを示しており、脂の乗った魚、鍋物、塩気や発酵感のある料理と合わせると、酒の厚みが生きます。

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